京都大学霊長類学・ワイルドライフサイエンス・リーディング大学院(PWS)公開シンポジウム

ワイルドライフサイエンス: 野生動物を知り、共に生きる

終了いたしました。ご参加いただきましてありがとうございました。
日時:
2023年11月18日 13:30~16:30
場所:
ハイブリッド形式

• 京都文化教育センター302号室 (URL):定員80名、申し込み先着
• Youtubeストリーム限定配信:定員なし、お申込みいただいた方にURLをお送りします

[申し込みフォーム]

*Youtube配信を複数人でご覧になる場合、申し込みは代表者一名で構いません
*対面参加の申し込み締め切りは11月15日、もしくは定員に達した時点です
*Youtube配信への参加申し込みには締め切りはありません。シンポジウムが終了するまで申し込み可能です

画像の無断転載を禁じます

京都大学霊長類学・ワイルドライフサイエンス・リーディング大学院(PWS)は2014年より、絶滅の危機に瀕する野生動物を対象とした研究・教育・保全活動実践を行ってきました。また、京大の伝統であるフィールドワークと、ラボワークなど多様な研究を統合してワイルドライフサイエンスという新たな学問領域を創生し、ヒトとそれ以外の動物の共生を目指してきました。

本シンポジウムでは、中高生から一般の方々までを広く対象として、キリン・ゴリラ・ヒョウを研究する3名のPWSプログラム修了生たちが成果を発表します。また、カナダにてラッコの研究を行うErin Foster博士をお招きし、野生動物の生態研究から保全実践までを広く考える機会とします。

program

プログラム

13:15

開場

13:30~13:35

開会の挨拶

13:35~14:20

基調講演(日本語通訳付き)
エリン・フォスター(カナダ水産海洋省)
海草群集におけるラッコの役割:過去から現在まで
Erin Foster (Fisheries and Oceans Canada)
The Role of Sea Otters in Seagrass Communities: Past and Present 講演要旨

14:20~14:50

齋藤美保(京都大学アジア・アフリカ地域研究研究科)
キリンの仔育てを追うーそこから見えてくる環境、そして人とのかかわりー 講演要旨

14:50~15:00

休憩

15:00~15:30

大塚亮真(大阪大学大学院情報科学研究科)
マウンテンゴリラの観光と保全の研究から動物行動学と情報科学の融合研究へ 講演要旨

15:30~16:00

仲澤伸子(椙山女学園大学)
森に潜むヒョウ―痕跡から生態を解き明かす 講演要旨

16:00~16:25

総合ディスカッション

16:25~16:30

閉会の挨拶

海草群集におけるラッコの役割:過去から現在まで
The Role of Sea Otters in Seagrass Communities: Past and Present

捕食者が生物群集の構造を変化させる*1ことがよく知られています。 それだけでなく,捕食者の多くは餌を食べる時に、植物や地面などを撹乱します。 このような撹乱はその場所の遺伝的多様性を増加させ、そこに生息する種の環境変化への適応や回復力に影響を与える可能性があります。 私たちは、ラッコ(Enhydra lutris)が餌を取る時に海底を掘り起こす行動がアマモ*2Zostera marina)の有性生殖を促進し、遺伝的多様性を増加させることを発見しました。 アマモのアリル多様度*3は、ラッコが20~30年に渡って生息している場所の方が、ラッコが最近(10年未満)生息し始めた場所、または100年以上生息していない場所と比較して30%も高かったのです。 北米全土で、ラッコの再定着とアマモ資源量には正の相関関係があります。 ラッコが貝を海底から掘り起こす行動により、アマモ同士の生息空間を巡る競合が低下して生育しやすくなっている可能性があります。毛皮貿易による海棲哺乳類の激減は、沿岸生態系におけるほぼすべての側面に大きな混乱を引き起こし、それ以前に存在した生態系の仕組みが分かりにくくなっています。 環境 DNA 分析の最近の進歩により、現在、海草群落におけるラッコの過去の役割を調べることができるようになってきました。 これまでの研究とこの新たな研究展開と合わせることで、捕食者が生態系に及ぼす影響と、捕食者の個体数回復による利益がみえてきました。
*1:捕食により、他の生物種の個体数などを変化させるということ
*2:海中に生える種子植物で、アマモ場と呼ばれる大群落を作る。地下茎の分岐による栄養生殖と、種子による有性生殖をおこなう。
*3:遺伝的多様性の指標の一つ
エリン・フォスター
カナダ水産海洋省
ブリティッシュコロンビアの沿岸部で、多くの時間を自然の中で過ごしながら育つ。ビクトリア大学にて、海草生態系におけるラッコの影響や、先住民による伝統的な貝養殖へのラッコの影響の研究を行って学位を取得。現在は水産海洋省の研究者として、環境DNAを用いてアマモ場におけるラッコの過去の分布調査を行っている。




キリンの仔育てを追う ―そこから見えてくる環境、そして人とのかかわり―

これまで取り組んできたキリンの仔育てに関する研究のうち、PWS履修生として在籍していた2017年の調査結果についてご紹介します。「もらい乳」という母親ではないオトナメスからお乳をもらう行動は、様々な種で報告されてきました。動物園のキリンはその行動を高頻度で行うことが報告されていましたが、野生のキリンでの報告はそれまでにたった一例しかありませんでした。
キリンは複数の母仔ペアが集まり、クレイシと呼ばれる仔育て集団を形成します。しかし、母仔全頭が常にともにいるわけではなく、母親が仔を集団に残して移動することもしばしばあります。そんな時、残された仔は母親以外のオトナメスにお乳をねだることがあるのではないか。そのような疑問のもと調査した結果を発表します。また仔育てを追うことで少しずつ見えてきたキリンと環境、そして人とのかかわりについてもご紹介します。

 
齋藤美保
京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科
2019年、京都大学大学院理学研究科博士課程修了(理学博士)。PWSプログラム修了生。大阪大学、京都市動物園生き物・学び・研究センターを経て2022年から現職。2010年からタンザニアをフィールドに、マサイキリンの主に母仔関係を研究している。

マウンテンゴリラの観光と保全の研究から動物行動学と情報科学の融合研究へ

私は小学生の頃からマウンテンゴリラの保全活動に携わることを夢見ていました。マウンテンゴリラはわずか2つの生息地におよそ1,000個体だけが生息しているという絶滅危惧種で、その約43%はウガンダのブウィンディという地域に生息しています。大学院生になった私は、幸運にもPWSの支援を受けてブウィンディで1年以上、ゴリラの観光と保全活動(以下、保全)についての調査をすることができました。ゴリラ観光は高額な参加費にもかかわらず人気を博し、ゴリラの保全と密接に関係しています。本発表では、ゴリラ観光と保全の関係、および両者の課題についてお話します。さらに、私は今、主に海鳥などを対象に動物行動学と情報科学の融合研究に取り組んでいます。2022以降、新たに取り組んでいる研究についても本発表の後半でご紹介します。
大塚亮真
大阪大学大学院情報科学研究科
2016年から京都大学アジア・アフリカ地域研究研究科にてウガンダのマウンテンゴリラの観光と保全について研究し、2021年に博士号を取得(地域研究)。PWSプログラム修了生。京都大学野生動物研究センター、アフリカ地域研究資料センターを経て現職。

森に潜むヒョウ―痕跡から生態を解き明かす

わたしが調査地としているマハレ山塊国立公園は、50年を超える調査期間を誇る霊長類研究の拠点として知られています。近年アフリカの森林におけるヒョウの地域絶滅が示唆されているなかで、マハレでは現在に至るまでヒョウの生息が確認されています。森林棲アフリカヒョウの保全のためにはその生態を明らかにする必要がありますが、マハレに限らず、世界的に見ても森林に生息するヒョウに関する生態学的な研究は少ないのが現状です。森林棲のヒョウは直接観察が極めて難しいことから痕跡などをもとにした調査が中心的になりますが、その手法が確立しておらず、知見の蓄積が少ないためです。そうした状況の中で、ヒョウのフン中の獲物の骨や毛、赤外線自動撮影カメラで撮影された写真を手掛かりに、わたしが取り組んできた森林棲アフリカヒョウの生態研究や、現地での調査の様子、調査助手をはじめとした地域住民とのかかわりなどを写真や動画なども交えながら紹介します。
仲澤伸子
椙山女学園大学
京都大学理学研究科にてタンザニアの森林に棲むヒョウの生態を研究し、2020年に理学博士を取得。PWSプログラム修了生。現在はヒョウの生態に加え野生動物と地域住民の関わりについての研究を行っている。